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No.22  秘密のアッコちゃん [short-short]

 最近、旦那の明彦の様子が妙だ。
 まずひとつはAKBなんて、これまで見向きもしなかったのに、
この2,3カ月前から、テレビに出ていると真剣な眼差しで
凝視するようになったこと。
 そしてもうひとつが、ほとんど独り言をいうことなどなかったのに、
自室でパソコンに向かっているとき、お風呂に入っているとき
洗面所でヒゲを剃っているとき、ブツブツ言うようになった。
何を言っているかは聞き取れないので、なんとか確かめてやろうと、
その度に、「何かいった?」とあたしが問い返すと、ハッとしたように
「別に…」などと応える。
 会社の仕事や人間関係でストレスを抱えるようになったとか、
環境の変化があったのかと心配になって
ご飯のときに、最近何かかわったことはあったのかと
問いかけてみたのだけれど、特にはないという。
 でも、女の勘でだけど、絶対に何かある。何か隠している。
気になり始めたから、やってはいけないことは百も承知だけど、
手帳とケータイを、少しだけ覗かせてもらうことにした。
 旦那がお風呂に入った時が、チャンス。
バスルームのドアが閉まる音を確認してから、あたしは旦那の
部屋に入って、ビジネスバッグのジッパーを開いた。
 週刊誌と手帳、ケータイ、ハンカチなんかが入っている。
まず、手帳を取り出し、今日の日付の欄をみた。客先の名前と訪問時間、
ミーティングの時間などが夫の字で書き込まれているだけだ。
最近一週間分のものをチェックしたが、意味不明な記載や記号もない。
先週、その前の週のページも、怪しそうなものは書かれていなかった。
 次に、ケータイを取り出して通話履歴を見た。ほとんどの通話が会社で、
あたしとの通話もあったが、確かに連絡があった時間に間違いはなかった。
メールについても送信履歴、受信履歴をスクロールさせてみたが、
不審に思われる相手とのやりとりはなかった。
 (あたしの思い過ごしだったのかな…)
少しほっとした気持ちになって、手帳、ケータイをカバンの中のあった
場所に戻そうとして、おや?、と思った。
 入っていたちいさな紙袋に印刷されたデザインに、見覚えがあった。
カバンから取り出してみると、ピンポン! やっぱりそうだった。
最寄り駅のショッピングモールにある、下着屋さんのものだ。
もしかして、わたしにプレゼント?と思って、テープをそっと剥がして
中を覗くと、真っ赤なレースが見えた。取り出してみると、スケスケの
ブラとショーツだった。サイズを見ると、とてもあたしには入らないサイズ!
その瞬間、猛烈な怒りがこみ上げてきた。
 レースの下着を握りしめ、あたしはリビングに戻りどうとっちめてやろうかと、
ソファーにふんぞり返って思案した。
 こんなときは、まずビールだ。冷蔵庫から缶ビールを取り出し、
乾いた喉に流し込んだ。
 ちきしょう、あの野郎!浮気してやがったな。誰だ、相手は。
場合によっちゃあ、ただじゃあ済ませねえぞ。離婚だ。
慰謝料たっぷりもらってやらなきゃあな。
どおりでこのところずっと夫婦生活がなかったわけだ。
どうせキャバクラだかどっかの糞女相手にへらへらしてんだろ、あのバカ!
 手持ち無沙汰になったあたしは、下着の紐に人差し指をひっかけてクルクル
回した。
 そこに、お風呂から出た旦那がパジャマ姿で入ってきた。
クルクルと回る赤いモノを見た瞬間の驚いた顔ったらなかった。
 あたしは怒りに燃える気持ちとは正反対に、醒めた口調でいった。
「この下着は-、どなたのでしょうかねー。誰がつけるんでしょうねー、
ずいぶん派手なお色ですねー」
 あたしの指先から下着を奪い取ると、旦那はそれを掌で握りしめ
カラダの後ろに隠して立ち竦んだ。
 なんだか、いたずらが見つかった小学生のような仕草だった。
 二の句の継げない旦那を、床に正座するようにいった。
肩を落として俯く姿を見ていたら、またまた怒りがメラメラと燃えだした。
「これは貴方が買ったものですよねー」
「………はい……」 
「で、だれが、着るんですか?」
しばらく、沈黙の時間が続く。
「もう一度訊く。誰が、着るんですか?」
答えは聞こえてこない。
「あんたの両親に、このこと言うからね」
「そ、それは勘弁して……」ようやく旦那が口を開いた。
「じゃ、言え。誰が着るんだ?」
「そ、それは……」
「言わないんだったら言うぞ、親に。いいんだな」
「……アッコちゃん、です」
ようやく認めたか、どこの女だ、そいつは。
こうなったら徹底的に痛めつけてやらなくては気が済まない。
妻であるあたしをなめた罰だ。
「あ?、誰だそれ?」
「それは………」
自分でもここまで性格がSだとは思わなかったが、こうなったら止まらない。
「呼べ。ここに。そのアッコとやら、連れてこい」
「え?………」
「呼べって」
「いや、でも……」
「いいから呼べよ」
「……呼んで、どうするのか……」
「土下座させんだよ」
「………呼ぶっていっても、すぐには無理だし……」
「かんけーねぇ!」
「………三、四十分かかるだろうし」
なんだ、割と近くにいるんじゃねーか。
「待つよ」
「……わかったよ」
「わかったよじゃねーよ、わかりましただろ!」
空になった缶ビールを投げつけると、旦那はのそりと立ち上がり、
自分の部屋へと入っていった。
上等じゃないか。一気に話つけたろうじゃないか。
もう一缶、あたしは缶ビールを開けた。こんどはロング缶だ。
しかし旦那のヤツ、部屋からケータイでアッコちゃんとやらを
呼び出しているんだろうが、本当に来るのだろうか。
ここに来るってことは相当の覚悟がいるはずだ。
あたしと離婚させてバカ旦那と一緒になるつもり、とか言うんだろか?
まさか、すっげーケバイ姉ちゃんで、怖いお兄さんとか連れてきたら
どうすんのあたし? あたしとしては、あいつが二度と浮気しないように
釘を刺しておきたいだけだったんだけど、
あれ、どうしてこうなっちゃったんだろう。
AKBみたいな女の子だったら、どうすりゃいいんだ?勝ち目ないぞ。
 そうこうしているうちに、三十分ほど経った。
旦那は鍵をかけて部屋に籠もったきりだ。
「おせーぞ!まだ来ないのか」ドア越しに、怒鳴り散らすと。
もう少しだから、と返事があった。
 ビールを飲みながらボーッと天井を見つめていると、カチャリ、と
旦那の部屋の鍵を内側から開ける音が、聞こえた。
その方向へと目を遣ると、少し開いたドアから、旦那の声が聞こえた。
「何があっても、しらないからね」
アッコちゃんとやらが、ウチのドアまで来たのだろう。
あたしも覚悟を決めた。
 その直後、旦那の部屋から金髪にクソ長いつけまつげに口紅とほお紅までつけた
メイクをして、真っ赤なレースのブラとショーツを着けた旦那の明彦が
恥ずかしそうに出てきて言った。
「アッコでーす」


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hatumi30331

腰抜けると思う。
by hatumi30331 (2012-07-04 17:31) 

yakko

こんにちは。お越し戴きアリガトウございます。♪
何となく予想はしていました・・・笑いました(^ニ^)
by yakko (2012-07-06 14:37) 

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